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  ○月×日 でもやっぱりブラジルよりスペインでしょ
   大仰な身振りで試合の展開に反応してみせるマルティノ監督の後ろで無表情に試合を見守る二人のコーチが二人とも貧乏ゆすりとしているのを見て、”やっぱりパラグアイは手強いな”と思ったのは僕だけではないはずだ。
 僕が社会人になった25年前には、例えば打ち合わせで10人も人が集まれば打ち合わせの間ずっと貧乏ゆすりをしているようなおじさんが必ず一人か二人はいたものである。それが、いつの頃からかそういう人に遭遇することがなくなってしまった。貧乏ゆすりをする人がいなくなったということは、貧乏な人がいなくなったということだろうか? そもそも貧乏ゆすりと貧乏がどれくらい関係しているのか、まったくわからないけれど、陽気なラテン系に貧乏ゆすりをさせるほどのプレッシャーが月並みでないことくらいはわかる。実際のところ、少なくないパラグアイ人が日本人の感覚からすれば貧乏と言っていいような生活を送っているのかもしれないが、そういうことまで含めて、あの試合に向けられた両国民の思いの深さを比べれば、日本に勝ち目がなかったことを容易に想像できる。とすれば、そうした思いの力の後押しよりもサッカーの力が優位に立つはずの120分の間に試合を決められなかった時点で、やはり日本の敗退は決まっていたんだろうと思われる。
 一応、世の中が「岡田更迭」にどんどん傾いている時期に日本代表の2勝1敗を予想した僕としては(と言っても、○○×の予想に対して実際は○×○だったわけだから、まったく自慢できる話ではないが)ここのところのこの国の熱狂ぶり、特に「名将・岡田」なんてフレーズを見聞きすると本当にしらけてしまうわけだが、まあ、こういうことは今に始まったことではないし、そういうふうに騒いでいたこと自体すぐにみんな忘れてしまうのだろうということは承知している。でも、今回の代表の戦いぶり、あるいは岡田監督が作り出そうとしたサッカーに対して、ヨハン・クライフの考えを持ち出してきて批判を加える連中には少なからず嫌悪をおぼえる。彼らは岡田サッカーを「美しい/美しくない」の二元論において批判するわけだが、クライフが「美しく勝利せよ」と言うとき、彼はおそらく「美しく勝利する/勝利する」の二元論に立っているはずで、「最後には必ずドイツが勝つことになっているゲームのことをサッカーという」と言ったのはゲリー・リネカーだが、クライフ的二元論はドイツようなチームについて語るときに初めて導入されるべきものだと思う。アジア予選のレベルでも常勝がおぼつかなかった岡田ジャパンにそのようなことを云々するのはクライフに失礼だ。なんて言うと、全然違う方向から「岡田ジャパンが美しいサッカーを現出した瞬間が確かにあったじゃないか」という声が出てくるかもしれないが、そうした人たちには小林秀雄に倣って「美しいサッカーがある。サッカーの美しさというものはない」とでも言えば十分だろう。
 ところで、僕が注目していたチリはブラジルに見事に粉砕されたが、その強さとは対照的に今回のブラジル・サッカーの評判はよろしくない。今回のブラジルの強さは今年のトレンドのエッセンスをブラジル的に昇華したものだが、つまりは今年のトレンドが世のサッカー好きには愛されないということなんだろう。小林秀雄に続く偉人シリーズで、マルクスに倣って言えば、「ひとつの妖怪がこのワールドカップを歩き回っている。モウリーニョという妖怪である」という感じか。アルゼンチンに注目が集まっているのは、マラドーナのスター性に負うところがもちろん大きいわけだが、それ以上にアルゼンチンのサッカーがアンチ・モウリーニョ的な匂い放っているからだろうというふうにも思う。僕自身は、まったくモウリーニョが嫌いじゃないので、ここでも世のサッカー好きとは距離をおくことになってしまうようだ。
 アンチ・モウリーニョと言えば、何はなくてもスペインだが、スペインがいまひとつ調子に乗れない原因を考えるうえで、ひとつのヒントになるのではと思われたのは本田や長友がパラグアイ戦を前に散髪したことだった。ワールドカップは、大会期間だけでも1ヶ月におよぶので、選手は誰でも大会期間中に散髪することになるはずだ。でも、たとえ優勝候補国の選手でも南アフリカの地に馴染みの理容師、あるいは美容師を連れてくるわけにはいかないだろう。そこに、スペインにとっての落とし穴があったのではないか。スペインの強さがシャビやビジャの眉毛の威力に因るものであることはEURO2008でも明らかだったが、その大事な眉毛を慣れない理容師や美容師が頃合いな具合に整えることは難しいのではないだろうか? 前髪を切り過ぎた女子高生のように、ホテルの部屋の鏡の前で眉毛の具合を見てブルーになっているシャビの姿を思い浮かべれば、スペインの試合ぶりも納得できるというものだ。スペインのデルボスケ監督がもしパラグアイ人なら間違いなく貧乏ゆすりをしてしまいそうな試合ぶりだが、そのスペインと次に対戦するのが他でもないパラグアイである。
 眉毛vs貧乏ゆすり。全然美しい感じはしないけれど、きっと面白い試合になるはずだ。
クョスコニョ    [1] 
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