総計: 4364251  今日: 3234  昨日: 4772       Home Search SiteMap
K's Glasses
profile
自己紹介
Diary 
Live Report
Recommend CD
  12月24日 GRAPEVINE@名古屋E.L.L.
   GRAPEVINEというバンド名がマーヴィン・ゲイの歌詞の一節から取られていることはファンの間では常識だが、とりあえずこのバンドの音楽的な方向性がマーヴィン・ゲイのようなロック・ミュージックを聴いて育った黒人のボーカル・オリエンティッドな音楽を指向していたことは間違いない。ところが、そのバンドの創設者が脱退し、彼よりも明らかにロック指向の強いサポート・メンバーがふたり加わったことによって、このバンドのサウンドはやや方向転換することになった。そのことをメンバーがどの程度自覚していたか定かではないが、いずれにしてもこの日のステージで2曲目に演奏された「アナザーワールド」がCDバージョンの「聴かせる」アレンジから「引っ張る」、あるいは「煽る」アレンジへと手を加えられていたことは、バンドの変化を象徴的に表していたように思われる。そして、黒人音楽のカバーから始めて、ストロング・スタイル・ロックンロール・バンドの最高峰となったローリング・ストーンズのカバーが、今回のセット・リストのひとつのポイントになっていることは決して偶然ではないだろう。
 ライブハウス・サーキット最終日。バンドの新たな可能性をいよいよ浮き彫りにしたステージになった。
 演奏をみつめながら、僕の頭の中をくり返し過ったのは「点で合わせる」というフレーズだ。サッカーにおいて、ゴール前に送られるクロスボールについて、そのボールの軌道の「どこかで」合わせてくれ、というのではなく、「ここで」合わせてという意志を持って繰り出されたボールに見事に誰かが反応し、決定的なシュートが生まれるシーンに使われる言葉である。今回のライブハウス・サーキットでこのバンドが指向していたのは、たとえばそういうことではなかったか? 微妙な揺らぎから生じる独特なグルーヴをこそ個性としていた以前のサウンドではなく、よりタイトに「点で合わせて」音楽をアグレッシブに前へ進めていく音楽を彼らは目指したのではないか? その成果が、先に書いた「アナザーワールド」であり、アンコールの1曲目で披露された「手のひらの上」だったのだと思う。また、東京のライブではアンコールの景気付け的な演奏でしかなかった「アンチ・ハレルヤ」や「ミス・フライハイ」が本編に移されて圧倒的な抜けの良さで披露されたのは、その指向性がこのバンドに馴染んできた証でもあるだろう。
 ただ、その馴染み方が十分だったかと言えば、そうとは言い切れない。油がうまく行き渡っていない歯車が時々空回りするように、数曲だけ意識の空白地帯のような演奏があった。願わくば、次作のレコーディングの前にツアーをやるべし。バンドの隅々までしっかり油を馴染ませて臨めば、間違いなく新しいGRAPEVINEの代表作が生まれるだろう。

クョスコニョ    [1] 
 前のテキスト: 12月28日 くるり@中野サンプラザ
 次のテキスト: 12月19日 クラムボンW/矢野顕子@リキッドルーム
copyright(c)2008 TATSUYA KANEDA All rights reserved