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  2月6日 山崎まさよし@渋谷公会堂
   会場が暗転し、山崎まさよしが登場して、おもむろにギターを弾き始める。いきなり全開だ。山崎まさよし的ロマンティシズムが会場を覆い、その磁力に会場全体が引っぱり込まれてしまう。もっとも、その発信源は男一人と彼が奏でるギター、物量的にはそこに最大でベーシストとドラマーが加わるだけの、極めてこじんまりとしたものでしかないのだけれど、そのこじんまりとした親密さが濃密さに昇華し、その濃密さが山崎ロマンに確かな質感を与え、その持ち重りのするロマンティシズムがオーディエンス一人ひとりの心のいちばん繊細な部分に確かな居場所を確保することになる。
“SEED FOLKS”と題したこのツアーは、昨年12月にスタートし、この日が14本目。4月末まで続く行程の、その半ば手前といったところだ。山崎の昨年のリリースは「太陽の約束」「アフロディーテ」「星空ギター」という3枚のシングルのみで、つまりこのツアーはニュー・アルバムをリリースして、その楽曲を聴かせてまわるという、一般的なパターンのツアーではない。だからこそ“おいしい!”と思えるのは、その最近作3曲はもちろんだが、「One more time,One more chance」をはじめとするヒット曲、人気曲を、今年デビューから18年目を迎えた彼のキャリアすべてを見渡したなかからバランス良くピックアップしていて、山崎音楽濃縮版を堪能できる内容になっているからだ。
「よく取材で“この歌詞の内容は実体験ですか?”と聞かれるんですけど、これだけ全部経験してたらお肌がボロボロになっちゃうでしょ」とか「結局、女々しいことばかり書いてますよね」とか、冗談めかした言い方ではあっても、山崎音楽のエッセンスをMCで自ら語ったりもするから、いよいよその音楽の魅力を実感することにもなる。
♪これ以上何を失えば♪と歌い始める「One more time,One more chance」を例にあげるまでもなく、山崎の楽曲の主人公の多くは“LOST FOLKS=失った人々”だ。しかも、その失われたものはその主人公にとってかけがえの無いものなのだが、そのかけがえの無さに気づくのはすでに失われてしまってからである。その失われたものへの哀惜の情を、山崎自身は例えば「女々しいこと」と言ったりするわけだけれど、しかし実際のところ人は常に何かを失い続けているし、それにもかかわらず失うことに慣れ親しむということがないのは周知の通り。だから、山崎が描く“LOST FOLKS”はやはり彼自身でもあり、そして我々自身でもある。
 その上で、彼の音楽を印象的に響かせるのは、彼の音楽のなかに通奏低音のように流れている“じつに時は流れていってしまう”という感覚だろう。かけがえの無いものを失ってしまったという特別な哀しみでさえも、時の流れはそれを過去に追いやって記憶のひとつにしてしまう。彼の音楽のいくつかの曲がひときわせつなく響くのは時の流れのその無情までも含み込んでいるからだし、いくつかの曲がなんとも爽やかに感じられるのはじつに流れていってしまうからこそ新しいときめきを見出す楽天性を持ち合わせているからだ。持ち重りがする山崎ロマンとは、つまりそんなふうに幾重にも様々な感情が折り重なっているということである。
 この日のライブは、絶妙なセット・リストが山崎の楽曲のそうした奥行きや広がりをあらためて感じさせてくれるということに加えて、山崎音楽のもうひとつの重要な魅力であるライブ・パフォーマンスの高効率なエネルギーの高さも堪能させてくれるという意味でも“山崎音楽濃縮版”と呼ぶに相応しい。
「どんどん“かわいい”って言うてください。この年になると、“かわいい”のほうへどんどんシフト・チェンジしていかんとね(笑)」なんていうMCをしていても、演奏が始まるとたちまちマジ。中村キタロー(b)や江川ゲンタ(ds)との会話がとりわけ緩いから余計、演奏が始まると一瞬にしてギュッと締まる、そのギアチェンジのキレの良さがなんとも印象的だ。そして、いったん高まったその演奏の集中力が下がることは一切ない。熟した実が新しい種を生み出すように、その成熟したバンド・アンサンブルは山崎音楽の次なる展開の予感もはらんでいるように思える。これまで積み重ねてきたキャリアの成果を伝えながら、その向こうにあるものを予感させるこのツアーは、山崎音楽の種を蒔く人たち=SEED FOLKSの新しい収穫に向けた第一歩でもあるのかもしれない。
クョスコニョ    [1] 
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