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僕が初めて九段会館を訪れたのは、大江健三郎の講演会。20数年前のことだ。それから、15年くらい前に九段会館で観たアラン・トゥーサンのライブは素晴らしかった。原田さんがこの場所でライブをやることに決めたのは、今年の初めにキセルのライブを観に来て気に入ってしまったからだそうだ。MCでの話では、その場でスタッフに電話して、「ここでやりたい」と伝えたと言う。ちなみに、彼女はこの場所にはちょっとした因縁があって、クラムボンのメンバーと出会った専門学校の卒業式がここで行われたのだが、クラムボンのメンバーは３人も成績不良でその式には出席できなかったそうだ。つまり、東京での初めてのソロ・ライブが彼女にとっては、遅ればせの卒業式でもあったわけだ。
そんな心温まるエピソードも披露されながら、ライブは進んでいく。彼女の最初のMCの結びは「どうぞ、ゆっくりしていってください」という言葉だったが、まさにそんなライブになった。ただし、穏やかな野心もちりばめながら。オザケンやLaB LIFEのカバー、果ては皆川真人とのピアノ連弾によるドビッシー「バレエ」まで、本当にやりたいことをじつにあっさりとやってしまった印象だ。まず自分が楽しむこと、その姿勢が嫌味じゃなく、むしろ歓びのおすそ分けとして音楽が伝わっていく感じがなんとも心地よかった。
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10月30日 原田郁子＠九段会館
