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高野寛のデビュー曲「SEE YOU AGAIN」を初めて聴いたときのことはよくおぼえている。スッと耳に入り込んで来るポップなメロディ、垢抜けたサウンド、そしてそうした音楽的要素によく馴染んだ歌詞。完成度の高さと瑞々しい甘酸っぱさを兼ね備えたその仕上がりに、新世代のポップクリエーターの出現を実感したものである。この日のライブは、そのときに感じた新しさの質をとてもシンプルな形で、だからこそ端的に感じさせてくれた。
デビュー16年目にしてリリースされたベスト・アルバムを携えてのツアーのファイナルである。MCでも話していた通り、そのベスト盤が王道を往く選曲なので、この日のセット・リストも彼の代表曲が並んだわけだが、その代表曲をズラリ聴き通してみると彼の音楽がじつに日本的な情緒感を基本にしたものであることに気づく。その味わいは、たとえば薄暮の街をひとり歩いていて、ふと家に帰ろう、帰らなきゃ、と思うその感覚に似て、人によっては郷愁を、またある人にとっては癒しをもたらしてくれる。80年代後半、彼が新しかったのは、我々がよく見知っている素朴な情感を洋楽的な演出で表現してみせるその手際の鮮やかさにあったわけだけれど、それにしてもそのベースにある日本的な感受性のデリケートさは彼ならではのものだ。彼に少し遅れて登場したオリジナル・ラヴの田島貴男やフリッパーズ・ギターのふたりの音楽と比べてみれば、その個性は明らかだ。去年リリースされた新作を聴くと、歌を音楽の中心に据えたシンプルなサウンドのおかげであらためて彼の感覚の個性が際立ってきたし、そこからさらに進んだところにこの日のライブはあった。
彼自身が親交の厚いクラムボンやハナレグミの登場を思えば、やっと彼の感受性と時代が本当の意味でシンクロし始めたとも言えるだろう。それだけに、プロデュース業もいいが、自身の作品への期待は大きい。そんなことをあらためて感じさせるライブだった。
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